特別インタビューコラム「辻野が行く」 第3弾

F4優勝ドライバーの練習は
今も「グランツーリスモ」

F4優勝ドライバーの練習は
今も「グランツーリスモ」

ゴールデンウィークの富士スピードウェイで開催されたSUPER GT。
その前座で行われたフォーミュラカーレースで17歳の選手が優勝した。

 

若手の登竜門レースと呼ばれる「FIA-F4」は近年、エントリーが急増。若手からベテランまで46台が開幕戦・富士に参戦した。その第1戦(5月3日)でポールポジションを獲得し、2位以下に12秒近い差をつけて優勝したのが小林利徠斗選手だ。

ゴールデンウィークの富士スピードウェイで開催されたSUPER GT。
その前座で行われたフォーミュラカーレースで17歳の選手が優勝した。

 

若手の登竜門レースと呼ばれる「FIA-F4」は近年、エントリーが急増。若手からベテランまで46台が開幕戦・富士に参戦した。その第1戦(5月3日)でポールポジションを獲得し、2位以下に12秒近い差をつけて優勝したのが小林利徠斗選手だ。

© TOYOTA GAZOO Racing

彼は2022年栃木県で開催の「いちご一会とちぎ国体・とちぎ大会」(栃木国体・第77回国民体育大会・第22回全国障害者スポーツ大会)文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の『グランツーリスモ7』部門・本大会でU-18の部、2位(準優勝)を獲得したeスポーツドライバーでもある。

 

「乗れない時間はゲームでもいいから走りたい」

 

すでにリアル(現実のレース)に参戦する17歳の高校生ドライバーにとって、「グランツーリスモ」はその生活に欠かせないものだという。

二刀流選手のルーツは
ゲームにあり

二刀流選手のルーツはゲームにあり

小林利徠斗選手(山形県代表)は山形県の高校に通う、素朴な雰囲気の少年だ。富士スピードウェイでフォーミュラカーに乗り、レースで優勝したなんて、彼のことを知らない人にはなかなか信じてもらえないかもしれない。しかし、彼は秘めたる才能を今、爆発させている。

 

小林:「相当小さかった頃ですが、お父さんが持っていた『グランツーリスモ5プロローグ』で遊んだのが僕のルーツです」

 

レースとの出会いを小林利徠斗選手はそう語る。

小学生の時、山形県の隣にあるスポーツランドSUGO(宮城県)でレンタルカートの模擬レースに出場。レンタル制のプログラムが終了してしまった後は、自分用のカートでレースに参戦するようになり、ついには国内最高峰の全日本カート選手権まで登り詰めた。

 

このプロフィールだけを聞くと、資金面でも恵まれたレース環境を用意してもらって経験を積んできたカートドライバーと思われてもおかしくはない。だが、現実は少し違う。実は小林選手の家庭はごく一般的なサラリーマン家庭であり、父・利典さんにはモータースポーツの経験もない。

小林選手の父・利典さんは「小学生の間だけカートをやってみようという感じだったんですが、6年生の時にチャンピオンになって、辞めさせるわけにもいかずで。周りに親がサラリーマンっていう子は居なかったですね。私自身、レースの知識は皆無でした」と語る。親戚や周りの人、スポンサーの支えに助けられて、何とかリアルのレース活動を続けることができた。莫大な活動資金が必要な全日本カート選手権への参戦は特に大変だっただろう。

 

しかし、そのキャリアがあったからこそ、トヨタの育成ドライバーを選出する「TGR-DC RS」を受講することができスカラシップを獲得。昨年、高校2年生にしてFIA-F4に出場し、最終戦で優勝して年間ランキング6位となった。その結果、トヨタのスカラシップ2年目のチャンスをもらい、小林利徠斗選手はランキング首位(5月末時点)につけている。

 

小林:「(レースをやっている同年代は)親の想いを継いでという人が多いと思いますが、僕の場合はそれがないので、新しい視点を持てているのかなと思っています」

                                                               

小林選手が言う新しい視点とは何なのだろうか?

今もデイリーレースで走り込む

小林利徠斗選手はレーシングカートでリアルのレースを闘いながら、同時に「グランツーリスモ」でも走り続けてきた。

 

小林:「中学生の時はデイリーレースを一生懸命やっていました。当時はアジアのランキングがTOP10スターという形で表示されていて、そこに名前が載るのが最初のモチベーションでした。TOP10に入れた時があって、それがもう楽しくて、毎週やっていました」

リアルのレースを経験すると「グランツーリスモ」のプレイから離れてしまう選手が多い中、小林選手は逆に「グランツーリスモ」をやり続けてきた。

 

小林:「元々、ゲーマーなところはあったので、カートをやりながらもゲームを続けていました。あくまでもゲームは楽しむためにやるものであって、それが今はリアルとバーチャルがいい感じに重なって、二刀流とかに見られるようになってきました」

 

そう言いながらも、小林選手はただゲームが好きだからプレイするだけに留まらない。ちゃんと彼なりの理由があって「グランツーリスモ」を続けている。

 

小林:「技術の向上をしたいので、毎日2時間くらいは走っています。「グランツーリスモ」は何百台ものクルマがあって、1台1台の挙動が大きく違う。だったら1台1台の挙動に対しての理解度を深めた方が何かと役に立つかなという思いでやっています」

 

「グランツーリスモ」のバーチャルレースで勝ちたい、1番になりたいという思いはもちろんある。しかし、小林選手に言わせれば、「グランツーリスモ」の研究、練習は実車のレースにも役に立っているそうだ。

 

小林:「走りの精度というか、ここまでは攻めて良いという自分の中のリミッターは走り込んだ総量で段々定まってくると思うので、そこが的確になってきたかなと思います。「グランツーリスモ」で自分の精度が上がってきたのをそのままリアルにも活かせた。だからポールが獲れたのかなと思います」

© TOYOTA GAZOO Racing

小林選手はFIA-F4開幕戦でライバルを0.2秒近くの差でポールポジションを獲得した。富士では誰かのスリップストリームに入ってタイムを稼ぐのが常套手段だが、それで好タイムが出るようでは決勝で勝てないとの思いから、小林選手はスリップストリームを使わずにタイムを出した。そして、決勝ではブッチギリのレースを演じたのだった。

 

リアルのレースでは走れるチャンスが圧倒的に少なく、FIA-F4でレース本番前に走れるのは2日ほどしかない。どうしたら速く走れるか、考えている間にレース本番はやってくる。小林選手は今も『グランツーリスモ7』のデイリーレースでタイムアタックをやり続け、世界のトップ10を目指すことで得た成功体験をリアルのレースにも活かしているのだ。

 

小林:「「グランツーリスモ」が僕の基礎になっているのは間違いないです。バーチャルでこれだけ走れているのに、リアルでタイムが出せないという状態だったら、まだまだ成長できるだろうなって考え方ができているので、今年はリアルでもさらに成長できる、まだまだ詰められるなと思います。」

悔しい敗戦を経験した2022年

小林利徠斗選手は2023年も「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の『グランツーリスモ7』部門に参戦予定だ。今年はU-18の部で最後の年になるため当然、まずは山形県代表を目指していく。

昨年は山形県代表として栃木県で開催された本大会に出場。なんと公式戦用の筐体で走るのは初めてだったそうだが、決勝レースでは白熱した2番手争いを展開。しかし、トップの佐々木拓眞選手(滋賀県代表)の逃げ切り優勝を許してしまった。

 

小林:「初めて大会用の筐体を使いました。想定以上にモニターが大きくて戸惑いました。距離感が掴めなくて、決勝では他の人に追突したり、予選の時もブレーキもどこで踏んでいいか分からなくてタイムも出せずで、悔しかったです」

 

その後、自宅のモニターの位置を変えるなどして、「グランツーリスモ」公式戦用の筐体に合わせた対策を実施。初めての世界大会「TGR GT CUP」ではようやく満足できる走りができたという。

小林:「今年はオフライン大会への慣れという意味では自信がついています。国体は勝ちに行きます」

 

リアルレーサーとしてはSUPER GT参戦、そしてその先にあるFIA WECへの参戦が目標という小林利徠斗選手。リアルでプロになれる日が来たとしても、バーチャルレーサーとして「グランツーリスモ」のレースには挑戦を続けるという。

 

小林:「「グランツーリスモ」は車種によって挙動の幅が大きいので、ゲームっぽいのかもしれないですけど、逆に僕は運転の幅を広げられると思っています。あとはプレイヤーの数が多い、レベルが高いというのが他のゲームやシミュレーターとは段違いだと思います」

 

「グランツーリスモ」を練習として活用するリアルレーサー、小林利徠斗選手は今年のU-18の部で大本命の一人になるだろう。

実況アナ・辻野ヒロシの取材後記

昨年の国体でU-18の部で2位になった小林利徠斗選手はFIA-F4でもメキメキと力を付けてきており、リアルレーサーとしても一目置かれる存在になってきました。その練習法が「グランツーリスモ」だとは驚きましたね。小林選手は自分の軸あるいは物差しとして「グランツーリスモ」を捉え、直向きにその鍛錬を重ねているのです。デイリーレースのタイムアタックでは先日収録されたばかりのスーパーフォーミュラSF23で世界ランキング3位になったとか。もはや「グランツーリスモ」では世界レベルの選手になっています。FIA-F4以外のリアルレースに出たりして経験を積むのは資金的に難しいそう。今後、「グランツーリスモ」で経験不足を補うという小林選手のメソッドが現実の結果にもつながることが証明されれば、世界中のプレイヤーたちにとっても大きな希望になると思います。今年の国体U-18の部で若き二刀流レーサーがどんな活躍を見せるか早くもワクワクしてきました。

実況アナ・辻野ヒロシの取材後記

昨年の国体でU-18の部で2位になった小林利徠斗選手はFIA-F4でもメキメキと力を付けてきており、リアルレーサーとしても一目置かれる存在になってきました。その練習法が「グランツーリスモ」だとは驚きましたね。小林選手は自分の軸あるいは物差しとして「グランツーリスモ」を捉え、直向きにその鍛錬を重ねているのです。デイリーレースのタイムアタックでは先日収録されたばかりのスーパーフォーミュラSF23で世界ランキング3位になったとか。もはや「グランツーリスモ」では世界レベルの選手になっています。FIA-F4以外のリアルレースに出たりして経験を積むのは資金的に難しいそう。今後、「グランツーリスモ」で経験不足を補うという小林選手のメソッドが現実の結果にもつながることが証明されれば、世界中のプレイヤーたちにとっても大きな希望になると思います。今年の国体U-18の部で若き二刀流レーサーがどんな活躍を見せるか早くもワクワクしてきました。

選手プロフィール

小林利徠斗(17) 山形

 

過去の「グランツーリスモ」大会成績

 

・全国都道府県対抗eスポーツ選手権
 2022 TOCHIGI U-18の部 山形県代表
 本大会 2位

 

 

筆者プロフィール

辻野 ヒロシ

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」では、開催初年度から実況を担当。「J SPORTS」「GAORA」などテレビのレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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