特別インタビューコラム「辻野が行く」 第1弾

ステイホームの時代が
産んだ若きヒーロー!

ステイホームの時代が産んだ
若きヒーロー!

チェッカーを受け選手名がコールされた瞬間、
ウイナーの目からは大粒の涙が溢れ出た。

 

2022年10月16日(日)栃木県で開催された「いちご一会とちぎ国体・とちぎ大会」(栃木国体・第77回国民体育大会・第22回全国障害者スポーツ大会)文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の『グランツーリスモ7』部門・本大会で17歳以下が対象の「U-18の部」を制したのは佐々木拓眞選手(滋賀県代表)。2位以下に4秒近い差をつける、ブッチギリの優勝だった。

チェッカーを受け選手名がコールされた瞬間、
ウイナーの目からは大粒の涙が溢れ出た。

 

2022年10月16日(日)栃木県で開催された「いちご一会とちぎ国体・とちぎ大会」(栃木国体・第77回国民体育大会・第22回全国障害者スポーツ大会)文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の『グランツーリスモ7』部門・本大会で17歳以下が対象の「U-18の部」を制したのは佐々木拓眞選手(滋賀県代表)。2位以下に4秒近い差をつける、ブッチギリの優勝だった。

実況解説でご一緒した山田和輝さん(ポリフォニー・デジタル)は「王者らしい貫禄溢れる走りだった」と絶賛。佐々木拓眞選手は堂々とした走りでU-18の部(旧・少年の部)では初となる連覇を成し遂げた。

ウイナーの涙、その理由

「会場に着いた時のワクワク感がオンライン大会とは全く違いましたね。かなり緊張していました」と佐々木拓眞選手は大会当日を振り返る。

 

2022年は3年ぶりとなるオフラインでの本大会開催だった。会場には『グランツーリスモ7』に加えて、他のゲームタイトルの大会も開催される賑やかな雰囲気。自宅から参戦するオンラインレースでは自分だけの世界に入り込むことができるが、オフラインではそうはいかない。選手のメンタル面でのマネージメント能力が結果に大きく影響すると言われている。

 

佐々木選手はコロナ禍の状況を鑑みてオンライン大会に切り替えられた三重大会(2021年)でも優勝しているが、「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」としては初のオフライン大会出場だった。

 

佐々木:「ほぼ完璧なレースができたと思います。自宅では予選でポールポジションを獲る前提のシミュレーションをしていました。でも、決して楽ではなかったです。レースの展開や運が重なったからこそ、勝てたのだと思います」

チェッカー後に佐々木選手の目からは大粒の涙が溢れ出た。全国47都道府県から200名近い代表選手が集められた2019年・茨城大会でもウイナーの嬉し泣きは見られなかった。勝てる実力を持つ選手はみな平常心を保つことに長けている。佐々木選手が思わず涙した理由はなんだったのか。

 

佐々木:「プレッシャーが大きかったです。注目選手として公式サイトでも紹介されていたりして、勝って当たり前だろうという周りからのプレッシャーをずっと感じていて。優勝した瞬間に今まで溜め込んでいたもの、思い込んでいたものが、身体から一気に抜けた感じでした」

 

2021年の優勝はオンライン大会、そして2022年は「グランツーリスモ」ドライバーとしての真価が問われるオフライン大会。ここで絶対に負けてはいけないという強い思いから佐々木選手が解放された瞬間だった。

ステイホームで出会った
「グランツーリスモ」

ステイホームで出会った「グランツーリスモ」

2021年の初優勝の時、当時16歳の佐々木は1年ちょっとしかなかった「グランツーリスモ」歴が話題になった。彼が『グランツーリスモSPORT』に出会ったのは世界中が新型コロナウィルスの脅威に怯え、ステイホームを強いられた2020年のことだ。

 

佐々木:「自宅でやれることを探していました。そこで、たまたま2019年の国体の映像を見つけました。2019年当時は大会があったことすら知らなくて、そこにかつてのライバルが出ていたんです」

 

かつてのライバル。実は佐々木選手は2019年までラジコンのレースに取り組み、数々のレースで優勝する実力の持ち主だった。TAMIYAが主催する世界大会で2016年からなんと3連覇したという。当時、同じレースに出ていたのが2020年鹿児島大会の「少年の部(現・U-18の部)でも優勝した三宅拓磨選手(東京都代表)だった。

 

佐々木:「2019年の映像を見て、三宅くんもやってるのか、じゃあ僕もやってみよう!というのが始まりで、そこから僕も「グランツーリスモ」に没頭していきました」

自宅で過ごす時間が増えた2020年、佐々木選手は『グランツーリスモSPORT』で走り込んだ。そしていきなり2020年鹿児島大会のオンライン予選を通過し、滋賀県代表として関西ブロック代表決定戦に進出。しかし、ブロック代表決定戦では予選7位からスタートし、9位に順位を落として敗退し、本大会には出場できなかった。

 

佐々木:「経験値が足りていなかったですね。速さも劣っていました。練習ではうまく行っていたのに。もう悔しくて、そこからバンと火が付いて!」

 

「グランツーリスモ」を始めてすぐに県代表になれること自体が凄いことだが、佐々木選手の心はそこで満足しなかった。リベンジに燃えた佐々木選手はデイリーレースなどありとあらゆるレースに出場し、足りないと感じた経験値を埋めていったのだ。

 

佐々木:「「グランツーリスモ」の公式レースは全て出場しましたね。一般の部に県代表として出ているような人たちともレースをするようになって、そこで勝つことができた時、これはイケるかもしれんと思ったら、気持ちに余裕ができました」

 

プレイヤーの中では珍しいタイプの少年だった。佐々木拓眞選手は髪色を派手に染めて、「たくあん」のハンドルネームで自らのレースをYouTube配信することでも話題に。しかし、「グランツーリスモ」歴2年目にして2021年三重大会「U-18の部」で優勝した陰には相当な量の努力の積み重ねがあったのだ。

いよいよ今年は一般の部へ

2021年は『グランツーリスモSPORT』、2022年は『グランツーリスモ7』で「U-18の部」を制覇。異なる両タイトルでの連覇はもう誰も達成できない偉業だ。

 

2023年、19歳になる佐々木拓眞選手はいよいよ「一般の部」にステップアップ。世界大会を戦う経験豊富な実力者たちと対峙することになる。狙うはもちろん「U-18の部」と「一般の部」の両選手権制覇。これはまだ誰も達成したことがない。

佐々木:「一般の部はベテランドライバーたちの経験値が圧倒的に違います。速さ自体はU-18と変わらないと思うんですけど、レースの展開はめちゃくちゃ頭を使わないと勝てないと思います。戦略が大事になると思うので、そこを変えていかないと。念入りに練習してやっと立ち向かえるレベルだと思っています」

 

自身の気持ちをそう引き締める佐々木選手。「グランツーリスモ ワールドシリーズ」など世界大会にも参戦できるようになり、今後のライバルは海外の猛者たちとなるが、国体の文化プログラムとして開催される「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」にかける思いは強い。

 

佐々木:「僕にとって夢中になれるのが国体です。勝ちたいと思えるレースです。努力のしがい、挑戦のしがいがある。僕にとって無くてはならない存在ですね。国体には出られる限り出続けますよ」

 

高校生で「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」を連覇した佐々木拓眞選手の活躍は地元、滋賀県でも話題だ。テレビ局の取材を受けたり、地元の銀行が発行する冊子の表紙を飾ったりとメディアの注目度も高い。

佐々木:「「グランツーリスモ」に出会って、人生はめちゃめちゃ変わりましたね。もちろん良い方向に。一番夢中になれるもので、飽きないです。それくらい魅力があるものだと思っています。リアルのレースも興味はありますけど、せっかく出会ったeスポーツだから、僕はeスポーツで生きていきたいです」

 

そう夢を語った佐々木拓眞選手は高校を卒業し、eスポーツチームと契約を結んだ。国体(全国都道府県対抗eスポーツ選手権)、そしてコロナ禍で「グランツーリスモ」と出会った少年は3度目の日本一、その先にある世界一を目指す。

実況アナ・辻野ヒロシの取材後記

佐々木選手は見た目が派手でヤンチャそうですが、とても礼儀正しい好青年です。勝って涙するピュアなハートも応援したくなる選手ですよね。ラジコンで世界一になって、今度は「グランツーリスモ」でナンバーワンを目指す。本人は「ラジコンやってた話はあまりしないようにしています」と語っていたのですが、僕は彼に自分の歩んできた道なのだからドンドン言った方が良いよと伝えました。何かの世界でナンバーワンを目指したことがある人は別のジャンルに行っても飲み込みが早いし、培われたマインドは何よりも本人の財産だと思います。佐々木選手のように別ジャンルから転向してくる選手が増えると面白いだろうなと話を聞いていて思いました。一般の部にステップアップする今年、プレッシャーはさらに大きいと思いますが、今年も素晴らしい活躍を期待しています!

実況アナ・辻野ヒロシの取材後記

佐々木選手は見た目が派手でヤンチャそうですが、とても礼儀正しい好青年です。勝って涙するピュアなハートも応援したくなる選手ですよね。ラジコンで世界一になって、今度は「グランツーリスモ」でナンバーワンを目指す。本人は「ラジコンやってた話はあまりしないようにしています」と語っていたのですが、僕は彼に自分の歩んできた道なのだからドンドン言った方が良いよと伝えました。何かの世界でナンバーワンを目指したことがある人は別のジャンルに行っても飲み込みが早いし、培われたマインドは何よりも本人の財産だと思います。佐々木選手のように別ジャンルから転向してくる選手が増えると面白いだろうなと話を聞いていて思いました。一般の部にステップアップする今年、プレッシャーはさらに大きいと思いますが、今年も素晴らしい活躍を期待しています!

選手プロフィール

佐々木拓眞(18) 滋賀県

過去の「グランツーリスモ」大会成績

・全国都道府県対抗eスポーツ選手権
 2022 TOCHIGI U-18の部 滋賀県代表
 本大会優勝

・全国都道府県対抗eスポーツ選手権
 2021 MIE U-18の部 滋賀県代表 
 本大会 優勝

・TOYOTA GAZOO Racing GT Cup 2022
 3位

・TOYOTA GAZOO Racing GT Cup 2021
 グランドファイナル出場

筆者プロフィール

辻野 ヒロシ

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」では、開催初年度から実況を担当。「J SPORTS」「GAORA」などテレビのレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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