特別インタビューコラム「辻野が行く」 第2弾

「グランツーリスモ」で
家族の希望が生まれた

「グランツーリスモ」で家族の希望が生まれた

自分が出場できなかったレースを、
あなたならどんな気持ちで見るだろうか?

 

2022年栃木県で開催された「いちご一会とちぎ国体・とちぎ大会」(栃木国体・第77回国民体育大会・第22回全国障害者スポーツ大会)文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の『グランツーリスモ7』部門・本大会に進んだのは僅かに12名。エリア選抜戦を勝ち抜いた精鋭たちだけに用意された舞台。そこに岡山県代表の姿はなかった。

 

「仲間が出ていたので、みんなを応援していました」

優しい表情でこう語ったのはU-18の部(旧・少年の部)で4年連続の県代表選手となった石水優夢選手(岡山県代表)だ。本大会当日、仲間でありライバルでもある友達のレースを家族と一緒に見守っていたという。

自分が出場できなかったレースを、
あなたならどんな気持ちで見るだろうか?

 

2022年栃木県で開催された「いちご一会とちぎ国体・とちぎ大会」(栃木国体・第77回国民体育大会・第22回全国障害者スポーツ大会)文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の『グランツーリスモ7』部門・本大会に進んだのは僅かに12名。エリア選抜戦を勝ち抜いた精鋭たちだけに用意された舞台。そこに岡山県代表の姿はなかった。

 

「仲間が出ていたので、みんなを応援していました」

優しい表情でこう語ったのはU-18の部(旧・少年の部)で4年連続の県代表選手となった石水優夢選手(岡山県代表)だ。本大会当日、仲間でありライバルでもある友達のレースを家族と一緒に見守っていたという。

介護机にハンドルをつけて
始まった

介護机にハンドルをつけて始まった

国民体育大会の文化プログラムとして「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」がスタートしたのは4年前の2019年。まだ「eスポーツ」という言葉が世間に浸透しておらず、ネット上では「こんなのはスポーツじゃない」など語気が強めな意見もあった時代のことだ。

 

リアルドライビングシミュレーター『グランツーリスモSPORT』も2019年から「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の競技タイトルに選ばれ、初年度から多くの参加者がオンラインの予選にチャレンジした。石水優夢選手もそんな一人だった。

石水:「小学生の時、僕の家はゲーム禁止でした。だから、親が居ない時にお兄ちゃんと内緒で「グランツーリスモ」を少しだけやっていたのです」

 

石水選手はF1ファンだった母・加名さんの影響もあり、小さい頃からクルマが大好きな少年だった。小学校6年生の時、父・俊之さんの知人に中山サーキット(岡山県)でレーシングカートに乗せてもらえる機会をもらって、夢中になった。その頃、「将来の夢はF1ドライバー」と発表会で語っていたほどだ。

 

しかし、知人の息子さんが別のスポーツに取り組むことになり、カートに乗せてもらうチャンスは無くなってしまった。

 

家でゲーム禁止は男の子5人兄弟の石水家の教育方針。しかし、2019年の茨城大会を見つけ、石水優夢選手に挑戦を勧めたのは父・俊之さんだったそうだ。

 

石水:「6年くらい使わずに寝かしていただけのハンドルコントローラーが家にあったので、それを介護机に固定して国体のタイムアタックと練習をしました」

 

石水選手は2019年の茨城大会のオンライン予選から本格的に『グランツーリスモSPORT』で走りはじめた。何とか岡山県でオンライン予選10位となり、県代表を決める大会に参戦した。

 

石水:「思い出づくりのためだと思って会場に行きました。そしたら、中山サーキットでカートに乗った時に走っていたカートレーサーがたくさんいてビックリしました。オンライン予選のタイム順でグリッドが決まるのも知らなくて、僕は10番手からのスタート。しかも、みんながランボルギーニ・ウラカンを選んでいたのですが、僕はポルシェ911 RSRでレースに出たのです」

最初から思い出づくりと割り切っていた石水選手はバーチャルでは必要のないレーシングスーツを着用してレースに参加。10番グリッドからスタートし、ライバルたちが選んだ車種とは違うマシンに乗って、怒涛の追い上げを披露。なんと2位でゴールしたのだ。2019年は各部門2人ずつ県代表が選ばれるルールだったため、思いがけず少年の部(現・U-18の部)で岡山県代表選手になれた。

障害を乗り越えて、
輝ける世界へ

障害を乗り越えて、輝ける世界へ

地元のカートレーサーたちを打ち破り、代表選手に。茨城の本大会では予選レースで敗退したものの、石水選手は「グランツーリスモ」を本格的にやり始めて数ヶ月で、自らが秘めていた才能を開花させた。

 

石水選手は実は発達障害を抱えていることを告白している。読み書き障害と診断されたのは中学2年生の頃。そんな折に彼は「グランツーリスモ」の国体レースに出会った。

 

母・加名さんは「診断が出てからは私も考え方を切り替えて、得意なことを伸ばしてあげたいなと思うようになりました」と語る。ゲーム禁止の教育方針だったが、「グランツーリスモ」に取り組むことだけは息子に許可を出した。

 

父・俊之さんは「中学3年生の時に学校の先生がみんなの前で、石水優夢くん、岡山県代表になってすごいね!って褒めてくれた。それが本人は嬉しかったようです」と石水選手の転機を語る。

「グランツーリスモ」で速く走ることができる。その特技を見つけてから、石水選手の努力の日々が始まった。自ら企画してチームまで作って、オンラインで練習する仲間を集めたのだ。

 

チームの名前は「La Brilint Corsa」(ラ・ブリリアント・コルサ)。イタリア語で「光輝くレース」という意味がある。Briliantのaのスペルが抜けているのはワザとで、チームでは誰がa(エース)ドライバーであるかを決めない=みんながa(エース)であるという証だそうだ。石水選手は形だけのリーダーで、みんなで上手くなっていこうと作ったチームだった。

石水:「自分でチームを作りたいなと思って作って、速い子をチームに誘っていったら、たまたまみんな同級生くらいの子たちばかりで。みんなで練習していました」

 

住んでいる地域も違い、会ったこともないけどオンラインでは繋がっている仲間で練習し、研究をし続けた結果が「4大会連続の岡山県代表」獲得だ。

 

石水:「みんなが居たからこそ、僕は国体に行けたと思っています」

 

そんな思いがあるから、自分が本大会出場を逃した2022年も配信で仲間を応援する気持ちになれた。

みんなの目標になる

オンラインで集まって練習する姿を間近で見てきた両親は、子供たちが一生懸命取り組む姿に感動し、いつしか兄弟を含めた家族全員で応援するようになったという。「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」やその他の大会への出場を通じ、親同士の交流も生まれ、今は石水選手だけでなく友達の選手の活躍も楽しんで応援している。

 

「受験も頑張ったんですが、優夢自身が希望する高校に進学という夢は叶いませんでした。それでも優夢は「グランツーリスモ」という生き甲斐を見つけたことで、夢を見続けられているのだと思います。「グランツーリスモ」のおかげですよ」と父・俊之さんは目を細める。

 

高校に行かない代わりに、石水選手は学習支援施設に通うようになった。「グランツーリスモ」で4大会連続の岡山県代表になった石水選手の活躍は、施設で出会った生徒や父兄の希望の星になっているそうだ。

 

石水:「そんなみんなの目標になりたいと思っています」

2023年、石水優夢選手はU-18の部を卒業し、一般の部へとステップアップする。ライバルは「グランツーリスモ ワールドシリーズ」など世界大会を戦う日本代表クラスの選手たちばかりのハイレベルな闘いだ。

 

石水:「もちろん優勝を目指していきます。国体でポールポジションを取った時は1日1000kmくらい走っていました。タイムトライアルで走り込むことくらいしかやっていないですけど、速い人たちのプレイを見て研究して、しっかり準備していきます」

 

石水選手がまず狙うのは5大会連続の岡山県代表になること。すでに4枚持っている県代表Tシャツのコレクションがまた増えるかもしれない。そして、これからは海外の選手とも戦うチャンスが増えてくるはず。いつか家族に海外で開催される「グランツーリスモ ワールドシリーズ」の代表選手としての自分を見てもらうことが彼の目標だ。

実況アナ・辻野ヒロシの取材後記

優夢選手が4年連続で岡山県代表になり、家族みんなで「グランツーリスモ」を楽しむ石水ファミリー。実はゲーム禁止の教育方針だったことは驚きました。介護机にハンコンをつけて始まった「グランツーリスモ」への挑戦は、今や兄弟分も含めて自宅のリビングに3台の筐体を置くほどに。強すぎる優夢選手のU-18の部卒業で、今年は弟の可夢偉選手にもチャンスが広がり、兄弟揃っての岡山県代表が期待されています。今は明るく楽しい雰囲気の石水ファミリーですが、ご両親はきっと悩みに悩んで子育てをされてきたことでしょう。そんな家族が見つけた一筋の光。みんな前向きで、話を聞いているだけでも心が温かくなるご家族に支えられて、石水優夢選手が今年の大会で輝く姿を見せてくれるか、今から楽しみです。

実況アナ・辻野ヒロシの取材後記

優夢選手が4年連続で岡山県代表になり、家族みんなで「グランツーリスモ」を楽しむ石水ファミリー。実はゲーム禁止の教育方針だったことは驚きました。介護机にハンコンをつけて始まった「グランツーリスモ」への挑戦は、今や兄弟分も含めて自宅のリビングに3台の筐体を置くほどに。強すぎる優夢選手のU-18の部卒業で、今年は弟の可夢偉選手にもチャンスが広がり、兄弟揃っての岡山県代表が期待されています。今は明るく楽しい雰囲気の石水ファミリーですが、ご両親はきっと悩みに悩んで子育てをされてきたことでしょう。そんな家族が見つけた一筋の光。みんな前向きで、話を聞いているだけでも心が温かくなるご家族に支えられて、石水優夢選手が今年の大会で輝く姿を見せてくれるか、今から楽しみです。

選手プロフィール

石水優夢(18) 岡山

過去の「グランツーリスモ」大会成績

・全国都道府県対抗eスポーツ選手権
 2022 TOCHIGI U-18の部 岡山県代表

・全国都道府県対抗eスポーツ選手権
 2021 MIE U-18の部 岡山県代表
 本大会7位

・全国都道府県対抗eスポーツ選手権
 2020 KAGOSHIMA 少年の部 岡山県代表
 本大会6位

・全国都道府県対抗eスポーツ選手権
 2019 IBARAKI 少年の部 岡山県代表
 本大会出場

筆者プロフィール

辻野 ヒロシ

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」では、開催初年度から実況を担当。「J SPORTS」「GAORA」などテレビのレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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