「ゴッド・オブ・ウォー」のアトレウスの進化

『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』開発チームの主要メンバーが、アトレウスをただの“少年”から、難しい年頃のプレイアブルキャラクターに成長させるまでのプロセスについて語ります。

2018年にリバイバルされ高い評価を受けた『ゴッド・オブ・ウォー』では、長くシリーズの主人公を務めるクレイトスに焦点を当て、彼をプレイアブルキャラクター、そして物語の原動力として、物語の中心に据えました。その続編『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』では、この焦点を、クレイトスとアトレウスの2人にシフトしています。

これはゲームとして自然な方向性ではありましたが、20年近く描き続けてきた主人公に加えて、物語の原動力となる新たなプレイアブルキャラクターを作ることは、サンタモニカスタジオ(SMS)の開発者たちにとって大きな課題となりました。

制作においては主に2つの困難がありました。1つ目は、アトレウスを自分の意志で行動できるより自立した青年として描くこと。2つ目は、これまでのキャラクター性や「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズのゲームプレイとマッチさせつつも、独自のアビリティを持つプレイアブルキャラクターとしてアトレウスを再構築することです。

チームメンバーの紹介

サンタモニカスタジオのツール、プログラミング、アートディレクション、ストーリー制作に至るまで、様々な部門から10人の開発者にインタビューをしました。

ストーリーリード

アニメーションディレクター

サウンドデザインリード

アニメーター

ビジュアルエフェクトリード

プログラマー

プログラマー

コンバットデザインリード

コンバットデザイナー

アートディレクター

アイデンティティの探求

多くのティーンエイジャーと同じく、アトレウスは自分が何者なのか学んでいる最中です。開発チームはまず、アトレウスというキャラクターの定義について探りました。彼が何について話し、何を着るのかというところから、プレッシャーがかかる場面での対応方法など、アトレウスの自分探しの旅を一緒に行ったのです。

Mihir(コンバットデザインリード):プロジェクト初日から、アトレウスがプレイアブルキャラクターになることはわかっていました。

キャラクターとしてのアトレウスのコンセプトは前作からありましたが、今作ではそこからさらに時間も経ち成長しています。それですぐに、検討したいアイデアや空想が浮かびました。

Rich(ストーリーリード):アトレウスくらいの年齢になると、誰もが自分探しの旅が始めます。自分がいったいどういう人間なのか、周囲の人を通じて知ることになるのです。アトレウスと少なからず関わるあらゆるキャラクターが、彼に影響を与えるようにしたかったんです。アトレウスは、ロキでもありますよね? ロキは様々な仮面をかぶり、様々な人物になりきれるキャラクターです。

アトレウスをプレイアブルキャラクターにすることの利点の1つは、父親と一緒にいない時の彼がどういう振る舞いをするのか描けることです。人は、誰と話すかによって、全く違った人物になりますからね。アトレウスの人物像に肉付けするには、他のキャラクターとの関係を見せることが重要だと思ったんです。

Raf(アートディレクター):アトレウスが物語で重要な役割を担うことはわかっていたので、彼の将来像を確立する良い機会となりました。つまり母親と父親から、それぞれどのような要素を受け継ぐのか、ということです。これは単に性格だけでなく、外見についても同じことが言えます。自分探しをする中で、アトレウスは父と母のどちらに強く影響を受けているのか? これが今作のキーテーマの1つです。

Rich:『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』は、アトレウスの大学生時代と言ってもいいでしょう。外に出て、自分探しをする年代ですね。不安を抱えて苛立ってるティーンエイジャーの要素は強調したくはありませんでした。もちろん彼にもそうした一面はあるし、リアルなキャラクターを作る上で必要な要素ではありますけどね。

Raf:アートの面では、彼の成長を基にデザインを進化させました。アトレウスはより自立して、自分で判断をするようになっています。また、前作よりもブロックとシンドリの影響は減りました。

初めてアースガルズに行った時、アトレウスはアースガルズの防具を手に入れて、そこでプレイヤーは選択を迫られます。その防具を身につけるのか、あるいは若きアトレウスの格好のままでいくのか、全てはプレイヤー次第です。このパートはプレイヤーが自分で進むべき道を選択しているように感じさせるため、特別に設けたものでした。

Bryan(サウンドデザインリード):クレイトスとアトレウスでそれぞれキャラクターの方向性が全く違うのは制作していて楽しかったですね。クレイトスはとても慎重で腰も重い。一方アトレウスは俊敏で、若くて、落ち着きがないところがあります。まだまだ彼は成長途中ですからね。アトレウスにはどこか、荒削りなところがあるんです。

Grace(アニメーター):ほんとにそう! 初めてアトレウスが宝箱を空ける時、彼は父親のように拳で叩き割ろうとしますが、うまくいかず手を痛めます。ただ物語の途中で、アトレウスが主体的に考えるようになる転換点があって、そこで彼は一皮むけて成長するんです。

Bruno(アニメーションディレクター):アトレウスには若き冒険者の雰囲気をもたせたかったんです。だからこそ、経験が浅いがゆえにつまずいたり危ない目にあったりする場面を描く必要がありました。

Rich:どんな戦いでも、いつも辛うじて勝利するヒーローみたいなイメージですね。

Hayato(コンバットデザイナー):アトレウスの攻撃はクレイトスほど致命的なものではありません。クレイトスの攻撃の多く(特にトドメを刺す攻撃)は、簡単に避けることはできません。ですがアトレウスの場合は、100%の自信を持って攻撃しているわけではないんです。

Grace:アニメーションの面から言うと、クレイトスはそれほど動きません。一方アトレウスはたくさん動き回るし、より多くのアニメーションが必要になります。壁を登ったり、ジップラインから飛び降りたり、移動する時に、アトレウスは1人でもよくリアクションします。

Bruno:特にあの“ホップ”する動きは忘れられません! アトレウスをプレイ時にしばらく操作せずその場にじっとしていると、カンフースタイルの“ホップ”をすることがあります。最初はちょっとした内輪ネタから始まったんですが、アニメーションができると、チーム全員が「これぞアトレウスだね。クレイトスとの違いがこれではっきりわかる」と納得したんです。

戦士としての成長

開発チームは、アトレウスを構成するすべての要素を慎重に考慮し、設定に沿ったものとしてだけであく、アトレウス独自の戦闘スタイルを作り出しました。

Rich(ストーリーリード):アトレウスのことは、共感できるだけでなく、心の底から信頼できるキャラクターにしたかったんです。プレイヤーは、既にクレイトスの視点から、サポートキャラクターとしてのアトレウスを知っています。なのであまり強力にしすぎると、物語の没入感を阻害してしまいます。

Mihir(コンバットデザインリード):そうなんです。アトレウスを強くしすぎてしまうのはリスキーでした。クレイトス視点に戻った時に、「あれ、ちょっと待って。クレイトスがあんま強く感じない。アトレウスの方が強くない?」とは思われたくないですからね。

Hayato(コンバットデザイナー):ある時点で、アトレウスとしてヘルウォーカーと戦って、そのあとクレイトスとして同じヘルウォーカーと戦う場面があるんですが、その差はすぐに実感できます。良い意味でクレイトスのほうが強く感じるはずです。アトレウスがすごく弱いというわけではなく、クレイトスのほうが、あらゆる状況に対応できる力がある、と感じさせるんです。この戦闘で、アトレウスとクレイトスをはっきり差別化できたと考えています。

Mihir:クレイトスとアトレウスで操作キャラが切り替わる時は、プレイヤーに予告なしで行いました。操作が切り替わる時に、アトレウスが独立したキャラクターとして感じられるようにしたいと思ったんです。ただこれをやりすぎると、キャラクターが切り替わった時に、プレイヤーがついていけなくなる可能性もあります。

プレイアブルキャラクターと同行キャラクターとしてのアトレウスを、それぞれ別々のキャラとして受け取ってほしくはなかったんです。プレイアブルキャラクターで実装したすべての要素は、同行キャラクターでも機能させる必要がありました。両方のモードで彼は同じスキルツリーが持っていますからね。

Bruno(アニメーションディレクター):開発初期に、アトレウスに剣やナイフを持たせるべきかどうか、チーム内でたくさん話し合いました。最終的には、要素を増やしてプレイヤーに負担をかけるよりは、アトレウスが成長する余地を残すことにしたんです。そして弓は、アトレウスにとって非常に重要なものになります。あの弓は母親から受け継いだものなんです。弓で敵を攻撃するアトレウスの戦闘スタイルを開発するのは、とても困難なものでした。

Mihir:クレイトスの武器は、近距離戦でも遠距離戦でも機能し、臨機応変に戦うことができます。武器を切り替えずに近接攻撃と遠距離攻撃を使い分けることができるわけです。遠距離攻撃と近接攻撃の両方でアトレウスに弓を使わせることで、アトレウスも同じように状況に合わせて戦うことができます。

Grace(アニメーター):アトレウスにはできる限り色々な場面で弓を使わせました。例えば、宝箱の蓋を開けるときや、アトレウスとシンドリが弓で扉を開ける場面なんかもありますね。弓が彼の一部であることをプレイヤーに伝えたかったんです。どんなときでも弓を使って、弓のことを忘れることはないんです。

Bruno:弓を使う場面は、クレイトスとの差を表現する演出でもあります。何か問題が起こると、アトレウスは道具や他の手段を使って解決しようとします。一方クレイトスは、ただ殴るだけです。

Hayato(コンバットデザイナー):正直に言うと、初めてアトレウスが母親の弓を野球バットのように振っているところを見たとき、ちょっと不安になりました。ただアトレウスは、弓を殴る道具として使っているわけじゃありません。アトレウスの内なる魔力を、弓を通して引き出して攻撃しているんです。

Christopher(ビジュアルエフェクトリード):あれは巨人の魔法、金色に近い色をしていますね。アトレウスのシールドはオレンジ色に光りますし、通常攻撃も同じ色の光を纏っています。ただ矢については、“音波”と“刻印”の2種類の魔法のスタイルがあります。音波は緑色、刻印はピンクがかった紫色にしました。これによってアトレウスの戦闘は全体的によりカラフルになりました。

Bryan(サウンドデザインリード):音波の矢は、その名の通り、音に関連しています。ただ、SF的、あるいは技術的なものにはしたくありませんでした。もっと自然で有機的なものでありつつ、クレイトスが自然に生み出す音とも異なるものにしたいと思ったんです。なので、矢が放たれて、着弾し、爆発するときに、その音に“動き”をもたせることを目標としました。

技術的な課題

アトレウスがプレイアブルキャラクターとなり、クリエイティビティやオリジナリティを発揮するチャンスは生まれましたが、それと同時に高い野心を実現するためには、いくつかの手強いハードルを越える必要がありました。

Cory(プログラマー):プログラマーはエレガントなシステムが大好きです。一方ゲームデザイナーは何か新鮮なものでプレイヤーを驚かせたいと考えますが、時にはそれがプログラミングを破壊することもあります。私たちにとっては、アトレウスがまさにそうした事例でした。

Bruno(アニメーションディレクター):クレイトスのスパルタン・レイジに相当する、アトレウスの動物へ変化する能力ですね。この能力を発動した際には、獰猛さやスピード感を際立たせなければなりませんでした。プレイヤーは、この力を制御しようとします。アトレウス自身が、この力を制御しようとしていますからね。

Grace(アニメーター):ただ、アトレウスはキャラクターであり1人の人間でもあるので、普通の狼とは違う動きをさせたかったんです。プレイヤーには、アトレウスを操作して制御してもらって、あちこちを走り回ったり、飛び回ったり、そしてそれと同時にスムーズに変化してもらいたいと考えていました。

Bruno:この変化はおもしろい能力でした。全く異なる2つの骨格構造を行き来するわけですからね。例えば、他のヒューマノイドに変化するのであれば、基本的には同じ骨格のままです。でも狼へ変化する場合は、すべてが変わります。

Cory:アトレウスは2つの異なるものになれるわけですから、この能力は様々なシステムに影響を与えました。例えば、クレイトスは好きな時にスパルタン・レイジを発動できますが、アトレウスは戦闘中にしか狼に変身できません。理由の1つは簡単で、狼は話せないからです! もしアトレウスが会話中に、突然狼に変化して、誰かがアトレウスに何か言ったら、アトレウスは返事をするはずなのにそれができなくなります!

Christopher(ビジュアルエフェクトリード):画面上の粒子が増えるほど、システムのレンダリング処理が必要になります。戦闘では複数の敵がオブジェクトをプレイヤーに投げることもあり、そうした場合はこの処理も激増します。武器を振る時も粒子が増えますし、それと同時に天候のエフェクトがかかることもあります! そうしたすべてが積み重なっていくんです。なのでアトレウスの戦闘アクションの多くは、「これ1つならうまくいくか? よし、じゃあ6つだとどうだ?」と細かく確認していく必要がありました。

Cory:この問題は、プロジェクト終了間際にたくさん出てきましたね。スムーズな60FPSというパフォーマンスの目標を達成しないといけないんですが、こういうエフェクトは、ゲーム内では計算コストが最も高いもののひとつです。

Christopher:ビジュアルエフェクトについては、刻印の矢が一番難しい課題でしたね。敵に向かって射ったり、地面に射って効果範囲を生み出したり、その効果範囲に当たると爆発または凍結したりと、たくさんの使い道があります。さらに、一定の距離があると連鎖し、同じ場所に2回射つと効果範囲が広がるのです。こんな作業はこれまでにしたことがなく、理解するのにたくさんの時間をかけて試行錯誤しました。

とてつもなく複雑なシステムで、これを実現できるのかと思ったこともありましたが、最終的にはうまくまとまりました。ビジュアルを決める段になって、なかなかうまくいかなかったので、コンセプトアートチームに駆け込んだら、「使えそうなルーンのデザインをまとめといたよ!」と言われました。これがビジュアルを決めるのに役立ち、その後形状や機能も固まりました。最終的には成功しましたけど、ヒヤヒヤものでしたね。

Ramon(プログラマー):開発チーム内には、分野の垣根を越えたグループがいくつもあって、従属的なものや制約についてうまくコミュニケーションを図ることができています。一人ひとりが、自分の分野については誰よりも詳しく、その知恵を結集させることで、シナジーが爆発するんです。「どうしてこうしないの?」とか、「おかげで思いついた」とか、「こうすればいいよ」といったやりとりが生まれて、この相乗効果のおかげでプロジェクトは前進しました。

個人的に特に気に入っているのは、オーディンから手に入れる空飛ぶ剣、イングリッドです。イングリッドは、武器でありつつ同行キャラクターでもあるため、制作にあたって苦労しました。これはシリーズ初の試みで、キャラクターを武器のように扱いつつ、キャラクターとしても機能させるのは、コーディングの面からとても厄介でした。例えばブロックやフレイヤは始めから同行キャラクターとして制作されています。なのでブロックを使わない時に、彼を掴んで背中に収納するなんてことはしません!

Raf(アートディレクター):アトレウスの矢筒にも苦労させられました! 前作では背中にありましたが、今回は腰に移すことにしました。プレイアブルキャラクターとして、どこに矢を射っているのかプレイヤーに見えるようにしたかったからです。色々な場所を試しましたね。簡単なことのように見えて、実は技術的なことをたくさん考慮する必要がありました。例えば腰で跳ねないか、とか、カメラアングル的に矢を取り出すところが見えるか、とかそういったことです。完璧に仕上げるには、生産サイクルを何度も繰り返す必要がありました。

Bruno:私たちはいつもこうやって自問しているんです。皆の気に入るものからはあまりかけ離れたくはない、けれどもそれと同時に、アトレウスは個性のあるユニークなキャラクターにしたい。宙返りやスピンをして、多くのアクションや攻撃スタイルが遠距離攻撃をベースとしたキャラクターは、これまで制作したことがありませんでした。でも違和感が大きすぎてもいけません。

プレイヤーの多くはクレイトスの操作に慣れていて、ゲームプレイの観点からすると、クレイトスを動かした時の感触や技が気に入っていて、ある種の期待を抱いています。結局のところ一番の課題は、クレイトスを操作したときの感覚に引けを取らない操作感をアトレウスでも実現しつつ、それでいてクレイトスとの差別化を図る、という点にありました。

ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク

エディション:

スタンダードエディション

PS4
  • ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク PS4

スタンダードエディション

PS4PS5
  • ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク PS4およびPS5

デジタルデラックスエディション

PS4PS5
  • ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク PS4およびPS5
  • ダークデールの鎧
  • ダークデールの装具(コスメティック)
  • ダークデールの柄頭(斧)
  • ダークデールの柄頭(刃)
  • デジタルアートブック(Dark Horse社制作)
  • 公式デジタルサウンドトラック
  • PS4およびPS5用PSNアバターセット
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