
なめらかな曲面に覆われたPLAYSTATION®3本体。そしてワイヤレスとなった新しいコントローラ。
これらPLAYSTATION®3のハードウェアをデザインしたソニーの後藤禎祐のインタビューをお届けします。
「本体のデザインコンセプトは『高性能にふさわしいデザイン』でした。PLAYSTATION®3は、次世代メディアのブルーレイディスクが再生でき、CPUであるCell Broadband Engine™の演算能力を活かした高精細な画質のゲームが楽しめます。そこでそれにふさわしいデザインが必要とされました。
これまでも“プレイステーション”は、その時代における最高のゲーム機でした。ですから、誰が見てもひと目で“ゲーム機”とわかるデザインを追及してきました。
今回のPLAYSTATION®3のスペックは、はるかに次元が高いものになります。ですから、今までのものとは全く違うデザインにしようと思いました。高性能、高級感、高い完成度。デザイン的にも、商品設計的にも、最高のものを作ろうという志がありました。」
これまでの“プレイステーション”のデザインには、様々なキーワードが用意されていました。
そして、PLAYSTATION®3のデザインにも新たなキーワードが織り込まれています。
「1994年に発売されたPlayStation®のデザインのキーワードは、当時新しいメディアだったCD-ROMの盤面。四角い箱に、丸い蓋と大きな丸いボタンが二つついたシンプルなデザインでした。
2000年に発売されたPlayStation®2のデザインのキーワードは“宇宙、地球、生命”。黒い石盤と、PS2のロゴ、スタンドの青いグラデーションのデザインからは、無限の生命感がイメージされ、ここからDVDや新しいゲームといった多彩なコンテンツが生まれていくことをメッセージとして埋めこみました。」
「PLAYSTATION®3本体の表面には“曲面のある、光沢がある素材”が使われています。こういった素材や形状は、家電ではあまり使われません。普通の(横幅)430ミリサイズのビデオデッキやDVDデッキとも違う、ゲーム機とも違う、新しさをあらわしたかったのです。
PLAYSTATION®3では、コントローラがワイヤレスになったことで、本体からケーブルが伸びることがなくなり、シンプルになりました。電源のオン/オフもワイヤレスコントローラでできます。テレビと本体を配線してさえいれば、テレビの横に置く必要もありません。本体を直接触って、操作する必要もないのですから、家庭のリビングのどこかに置いておくだけでいいのです。HDDが内蔵されていますから、メディアのスロットも隠してしまいました。PLAYSTATION®3では、ユーザーが使用する上での制約を少なく抑え、自由な置き方、使い方を可能にしました。
実際に、デザインする時は、“高層ビルディング”や、“花器”、“茶器”など、存在感があり、見た目に美しく、かつ、新しいということをイメージして、様々なスケッチを描いたり模型を作っていき、試行錯誤して現在の形にたどり着きました。」
初代のPlayStation®で採用された画期的なコントローラのデザインは、PlayStation®2、PLAYSTATION®3に継承されてきました。基本的なデザインを引き継ぎつつ、中身は進化しています。
「コントローラについて言えば、やはり、ワイヤレスになったことが一番の進化です。これまでもワイヤレスのゲームコントローラはありましたが、バッテリーが大きく出っ張っていたり、重たかったりしたものです。そういうコントローラでは、ゲームを遊ぶのに負担がかかります。握りにくかったり、手が疲れたりして、満足に遊べるものではなかったと思います。
そんな中Bluetoothというテクノロジーが一般的になったり、携帯電話に使われている高性能なバッテリーが普及したことにより、ゲーム機のコントローラでも採用できるようになり、PLAYSTATION®3のこの小さなコントローラの中に収めることが出来ました。しかも軽いです。従来のアナログコントローラ(DUALSHOCK2)よりも軽く、まさにストレスなくゲームを遊ぶのにふさわしいコントローラが完成しました。
また今回このコントローラには、コントローラの傾きや左右の回転による入力ができる、6軸検出システム(SIXAXIS)を採用していますが、これもまたワイヤレス化により実現した新しいインターフェイスです。ケーブルがついていると、傾き入力がしにくいですからね。ワイヤレスという技術により遊びが進化しました」
「おかげさまで“プレイステーション”のコントローラは、すべてのゲーム機のコントローラのスタンダードといってもいいくらい普及しました。PlayStation®やPlayStation® 2のゲームが遊べることはーつの大きなフォーマットであり、われわれの財産です。ですから、PLAYSTATION®3においても、このコントローラのかたちを継承することが、デザイン上の重要なポイントでした。
PLAYSTATION®3のコントローラの試作品。全て形状が微妙に異なっている。
また、中指の関節の凹凸にあわせて、コントローラ側にゆるやかなR(曲面)をつけることにより、より広い面でコントローラを支えられるようにしました。……触っていただければ、すぐにわかるはずです。ボタンを押しても、支えている指が痛くなりにくいように、中指が当たる点を面に変えてコントローラを保持するように改善しました。
こういったことは非常に微妙なことです。しかし、ゲームを長時間遊んでいただくと、差がでてくると考えています。
12年前のPlayStation®のコントローラから基本は同じですが、更に使い易いものへと、ブラッシュアップさせました」
日本、北米、ヨーロッパ、アジア。全世界で楽しまれている“プレイステーション”。
“プレイステーション”をデザインするというのはデザイナーにとってどんな体験なのか。
「ソニーは音楽や映像を楽しむ機械を提供してきました。しかし、“プレイステーション”によって、インタラクティブという新しい分野に進出できました。
この新しいイノベイティブな分野に関われたことが、デザイナーとして本当にうれしかったです。しかも、その性能がすばらしいものでした。おそらく、AV機器を含めて、コンシューマー商品でこれほど売れた商品をデザインしたデザイナーは僕だけだと思います。これほどの喜びはないですね。
しかし、同時に責任もとてつもなく大きいものです。ボタンひとつにしても、問題があったら大変です。出荷するケタが違いますから。たとえば、初代のPlayStation®のときは、子供が座っても壊れないようにと、非常に丈夫なデザインにしました。こういった制約を乗り越えながら、使い易く飽きのこない美しい形をデザインするということが、デザイナーの仕事だと思っています。
また初めてグリップのあるコントローラのデザインを世の中に送り出せたのは、奇跡的といってもいいくらいなことです。過去のゲーム機のコントローラにはグリップがなく、平らなパッド状のものしかありませんでした。そこにPlayStation®が、両手で握り締めるグリップ付きのデザインを提案したのです。このかたちは、たちまち高い評価を得ることができ他社も追随し、世の中におけるゲーム機のコントローラの“アイコン”になりました。これほどのことは、デザイナーとして一生のうちに何度もない、最高の喜びですね」
後藤禎祐(ごとう ていゆう)
ソニー株式会社 クリエイティブセンター マスターデザイナー
1994年発売のPlayStation®以来、PlayStation®2、PLAYSTATION®3の本体および、コントローラなどの周辺機器、1991年発売のカラーテレビ、キララバッソシリーズや、1997年発売のVAIO Note505など数多くのヒット商品のプロダクトデザイン、ネーミング、ロゴデザインを担当。
発明協会より2000年にはVAIO Note505のデザインが内閣総理大臣賞を受賞、2002年にはPlayStation®2のデザインが発明賞を受賞など、内外の数多くの賞を獲得している。